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数学に関する記事を書きます。

命題論理とは

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Gottfried Wilhelm Leibniz (1646 - 1716)
ドイツ人、ゴットフリート・ウィルヘルム・ライプニッツ。「calculus ratiocinator」の研究において、おそらく初めて形式的な論理とその演算について考察した人物。このことから彼は、現在の命題論理の体系の父と目されている。

命題論理とは

命題

定義(命題)

真または偽のどちらか一方が成り立っている*1文章のことを命題といいます。

「命題」は英語で Proposition です。なので、命題を記号で表すときは、その頭文字をとって $ P,Q,\dots$ と P から始まるアルファベットが用いられることが多いです。

「真」、「偽」という言葉についてですが、これはシンプルに「真」は正しい、「偽」は間違っているという意味と捉えていいです。ただし、その正しさは客観的に判断されるものとします。例えば

A:「数学が好きである」

B:「数学は学問である」

という2つの文章を考えると、A は聞く人により答えが変わるので命題とは言えませんが、B は誰しもが正しいという文章なので命題です。

命題論理とは

$ P$ と $ Q$ を命題とします。この 2 つの命題を用いて、新たな

$ R$:「命題 $ P$ と $ Q$は両方とも真である」

という文章を考えることができます。$ R$ の真偽は、$ P$ と $ Q$ がそれぞれ真なのか偽なのかにより、次の表で表されるような結果になります。

$ P$ $ Q$ $ R$

この例のように、複数の命題の間には何らかの関係性が存在します。このようなことについて調べる、論理学の一分野を命題論理あるいは命題論理学といいます。命題論理の基本部分は、述語論理の基本と並んで数学を理解する上で必要不可欠の知識となっています。

命題論理では、具体的な命題たちの間の関係を調べるというよりは、抽象的な命題の間の関係性に関する考察が基本になります *2 。したがってこれ以降の内容も、命題の中身自体についてはあまり触れないものになります。

準備

定理、証明

定義(定理、証明)

他の命題との関係性から真であることが示された命題を定理といいます。また、定理が示される過程を証明といいます。

これは数学の証明問題を解いたことがある人ならすぐに納得できる定義だと思います。

もっと一般に、ある命題の真偽を他の命題の関係性から導出する作業のことを論証といいます。

命題定数、命題変数

定義(命題変数、命題定数)

任意の命題が代入できる文字のことを命題変数といいます。この用語に対して、通常の命題を命題定数といいます。

命題定数という言葉は、命題変数と区別する必要がある場合に限って使います。

例えばいきなり「命題 $ P$」とだけ言えば、これは命題変数の意味です。 そして「定理 $ P$」と言ったり、「命題 $ P$ は真の命題である」ということが分かっている状況では、$ P$ は命題定数です。

真理値表

真理値表

各命題の真偽をまとめた次のような表を真理値表といいます。

$ P $ $ Q $
T T
T F
F T
F F

ここで、「T」は「真」を、「F」は「偽」を意味しています。

真理値表を用いると、考えている命題の真偽に関する全てのパターンを把握することができます。このことから、真理値表は論理演算の定義や、命題論理の定理の証明などに利用されます。

論理演算

論理演算

1つ以上の命題から、新たな命題を対応させる規則を論理演算といいます。論理演算を表す記号を論理演算子といいます。

例えば、

「$ A$ である」という1つの命題から、「$ A$ でない」という命題を作り出すことができます(→否定)。

「$ A$ である」と「$ B$ である」という2つの命題からは、「$ A$ でも $ B$ でもある」という命題を作り出すことができます(→論理和(または)・論理積(かつ))。

演算

否定

定義(否定) $P$ を命題とします。$ P$ の真偽を逆にした命題を $ \lnot P$ と表し、$ P$ の否定といいます。論理演算子 $ \lnot$ も否定といいます。

真理値表

$ P $ $ \lnot P $
T F
F T

ある命題の否定は、「・・・である」と「・・・でない」を入れ替えることなどで作れます。

例えば命題 $ P$:「$ 2$ は自然数である」に対し、$ \lnot P$ は「$ 2$ は自然数でない」という文章に対応します。否定の定義通り、真の命題 $ P$ に対し、$ \lnot P$ は偽の命題となっています。

論理包含(ならば)

定義(論理包含

$P,Q$を命題とします。$ P\rightarrow Q$ を、「$ P$ が真かつ $ Q$ も真であるとき、または $ P$ が偽であるとき」に真、そうでないときに偽となる命題と定義します。$ \rightarrow$ の定める論理演算を論理包含といいます。また、$ P\rightarrow Q$ の $ P$ を仮定または前件、$ Q$ を結論または後件といいます。

真理値表

$ P $ $ Q $ $ P\rightarrow Q$
T T T
T F F
F T T
F F T

$ P\rightarrow Q$ は「$ P$ ならば $ Q$ 」と読みます。

この論理演算は $ P$ が偽であるときに限りますが日常会話との齟齬があります。

また数学への応用においても、$P$ が偽であるときの論理包含はあまり考えません。$P$ が偽ならば、いかなる命題 $Q$ に対しても $P\rightarrow Q$ は真になりますが、この命題には価値があまりないからです。例えば偽の命題「$ 1+1=3$」を用いると、「$1+1=3$ ならばリーマン予想は正しい」という様な真の命題を無数に作り出すことができますが、この結論は定義からあたりまえで、特に新たな事実を発見したとは言えません。なので、応用に際しては $P$ が真か、真であると仮定 *3 して $P\rightarrow Q$ の真偽を考えることがほとんどです。

同値

定義(同値)

$P,Q$を命題とします。$ P\leftrightarrow Q$ を $ P$ と $ Q$ の真偽が一致しているときに真となり、一致しないときに偽となる命題と定義します。記号 $ \leftrightarrow$ を同値といい、$ P\leftrightarrow Q$ であることを「$ P$ と$ Q$ は同値である」といいます。

真理値表

$ P $ $ Q $ $ P\leftrightarrow Q$
T T T
T F F
F T F
F F T

論理和(または)・論理積(かつ)

定義(論理和論理積

$ P,Q$ を命題とします。

(1) $ P\lor Q$ を、$ P$ か $ Q$ の少なくとも一方が真であるとき真になり、そうでないとき偽になる命題と定義します。この命題 $ P\lor Q$ を $ P$ と $ Q$ の論理和といい、文章にすると「$ P$ または $ Q$ 」と表現されます。

(2)$ P\land Q$ を、$ P$ か $ Q$ の両方が真であるとき真になり、そうでないとき偽になる命題と定義します。この命題 $ P\land Q$ を $ P$ と$ Q$ の論理積といい、文章にすると「$ P$ かつ $ Q$ 」と表現されます

真理値表

$ P $ $ Q $ $ P\lor Q$ $ P\land Q$
T T T T
T F T F
F T T F
F F F F

なぜ、論理「和」、論理「積」と呼ばれるのかについては、次のように説明できます。

定義の真理値表における $ \lor$ を $ +$(足し算の記号)、$ \land$ を $ \times$(掛け算の記号) 、Tを1、Fを0で置き換えると、真理値表を

$ P $ $ Q $ $ P+Q$ $ P\times Q$
1 1 1 1
1 0 1 0
0 1 1 0
0 0 0 0

と書き換えることができます。ここからわかる通常の足し算、掛け算との関連性から、論理「和」、論理「積」という名称が与えられています。なお、$ P$ も $ Q$ も真であるときの論理和に対応する $ 1+1=1 $ のみ、論理演算独特のルールであることに注意してください。

重要事項

ド・モルガンの法則

ド・モルガンの法則 - 命題論理のド・モルガンの法則

*1:この真でも偽でもない状態を認めないという条件を、排中律といいます。命題論理を含む古典論理では、排中律の仮定が前提となっています。

*2:具体的な命題の間の関係をいくら調べていったとしても、一般の命題間に成り立っている抽象的な性質についてはあまりなにもわかりません。たとえば「数学は学問である」「数学は中学校で学ぶ」「数学は高校で学ぶ」のような数学について言えることからなる真の命題たちを組み合わせると、「数学は中学校で学ぶ学問である」「数学は中学と高校で学ぶ」という新たな真の命題を作ってくことができます。しかしこの作業は「数学」をテーマに言えることを際限なく積み上げていくだけのもので、命題の一般的法則を捉えるという観点からはあまり実りのある考察とは言えません。

*3:$P$ が真であるという仮定を置いた上で $P\rightarrow Q$ が証明されたとします。もし将来 $P$ が証明されれば、それと同時に $Q$ も証明されたことになります。したがって、$P$ の真偽が不明な場合も、$P\rightarrow Q$ を考察することには価値があります。